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「自転車」

  • 5月10日
  • 読了時間: 3分

 家の中でおもちゃで遊ぶ事に飽きてくると次の興味は外で遊ぶ事に移った。「自転車」である。

 小学校3,4年の頃であったろうか。父親がどこからか子供用の古い自転車を譲り受けたので乗る練習を始めた。最初は補助車を地面に付けた状態で、慣れてくると少しずつ地面から離し2~3週間で完全に補助車無しで乗れるようになった。乗れるようになると途端に新しい自転車が欲しくなった。

 記憶は定かではないが、当時多段式の変速機と荷台の下に大型のテールランプとウインカーが搭載されたスポーティーな自転車が出始めた頃だったと思う。ただかなり高額だった事と、身体の小さかった私にはまだ早いとの事で購入の候補にはさせてもらえなかった。

 近所に住むさして私と体格の変わらないT君が自転車を買ったとの事で早速見に行く事とした。T君が購入した自転車は車体こそ小さかったが、アールがつけられたボディや背もたれのあるL字型のラメの入ったサドル、大型の一つ目のフロントランプ等そのフォルムがバイクそのものでもの凄く格好良かった。「僕もこれが欲しい!」いつもの感情が芽生えた。

 そしてまたいつもの通りである。

 父親につれて行かれた自転車屋さんで勧められたのが、なんの飾りも無い全く普通の形の青色の地味な自転車だった。「なんだかな・・・」(見た瞬間に夢も希望も無くなった)(笑)

 「T君と同じのが欲しいらしいけど、人と同じもの乗っても嬉しくないだろ。自分独自のものがいいよ。」値札を確認した父親の説得が始まった。仕方なくバックミラーと豆電球の様な貧祖なウインカーを付けて何とか見栄えが良くなったので渋々了解した。

 そしていよいよ納車当日である。まだまだものが無い当時、近所のどこかの家に新しい物が来ると皆で見に行くという暗黙のイベントがあった。「今日I君の家に自転車来るらしいぞ!」「見に行こうぜ~」「何時?」「3時に来るみたい」

 長屋の一角の玄関前には10分位前から近所の男女7~8名が集まって来た。

「来たぞー」白い軽トラの荷台につまれているのを見届けると自分自身も興奮して来た。

 「へー格好良いじゃん」「ウインカー付いてるんだ!」「いいな~」

そんなやり取りがされてたその時である。

 「自転車来たかー」

T君が例の自転車で皆の前に颯爽と現れた。次の瞬間である。今まで私の自転車を褒めたたいていた皆が一斉にT君の自転車を見つめ、

 「うわー恰好いいー!」「バイク見たい!」「俺こっちの方が好きだなー」「俺もー」「私も」

皆T君の自転車を散々褒めた挙句解散となった。

 皆がいなくなった後、自分の自転車が急に哀れに思えてきていたたまれない気持ちになった。半べそを書きながら自転車を触っていると、父親が仕事から帰って来た。

 「おー来たな。格好よいなじゃん。良かったなー」

 「これを2~3年乗ったら今度はもっとスポーティーなのを買ってやるからな。」

 「・・・・・・」(僕はあなたを信じない)

私のひねくれた性格が形成される要因となった少年時代の一大事件であった。

                        ・・・・次回は「はじめてのギター」

 
 

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